ふみのや ときわ堂

季感と哀歓、歴史と名残りの雑記帳

アンコールワット記1:シェムリアップ空港とクメール王朝ディナー

恥ずかしながら、アジア史にあかるくない。
アジア自体、ほぼいったことがない。
東南アジアは、しごとで一度、インドネシアにいった。
朝5時から、街なかになりひびくコーランの大音声に、心底たまげた。
おそろしすぎるトイレ事情に、カルチャーショックをうけた。
トイレとコーラン。
このふたつを語りだすと、1万字くらいはほしい。
文明が違うということはこういうことか、と、脳天に金ダライを直撃させられたような衝撃だった。
トイレ、それは深淵なる真理。

▲1030関空→1330ハノイ(ベトナム航空)。1505ハノイ→1655シェムリアップ(ベトナム空港)

 

というアジアンメモリーをいだいて、搭乗。

なんといったって、トランジットがこわい。
イミグレーションもこわい。
よくひっかかる。
直近で、入国審査で、別室おくりに2回あった。
X線検査は、3分の2の確率でひっかかる。
今回は、現地まで、母とふたりでたどりつかねばいけない。
旅先ではおかねをもった中学生に豹変する母。
両肩にのしかかる責任。気がぬけない。

 

ところで、まえにカナダの入国審査でひっかかったのは、所持金のケタをひとつまちがえたという、はずかしすぎる原因だった。
札束をかかえて、国境を突破するところだった。
はずかしすぎるので、今回はおこたりなくやりたい。

 

ベトナム航空の体内で、入国カードの説明を、たんねんに読む。
アンドロイド版kindle内の、地球の歩き方を熟読する。
自席のちっこいライトをつけて、ありったけの集中力を注ぎこむ。

▲機内食。カマボコにあとから味をつけたような、奥ゆかしさ。
時間が中途半端だったので、機内食があるかどうかしらべまくったんだけれど、よくわからなかった。機内食、あります。

 

▲「君の名は」の画面。
すべての懸案事項をクリアしたら、することなくなった。
懸案事項!
この気負い。
その闘志をいだいたまま、全映画の説明を熟読する。
が、日本語訳がてきとうすぎる。
映画「君の名は」の説明がこちら。
「2人の見知らぬ人がどこかでつながっていると感じます。つながりができたら、距離だけが彼らを引き離せておけるのでしょうか?」
すごい。
まったくこころ惹かれない。
意味はなんとなくわかっても、感情をゆさぶりにこない。
勉強になります。
till death do us part だって、「死がふたりをわかつまで」と訳してはじめて、おなかに響く。

 

とはいえ、この監督の背景描写、おそろしく好き。
みなさまぜひ「言の葉の庭」をみてください。
45分です。みじかい。その8割で、雨がふってます。
都会にふる雨の美しさ。はちみつを脳にたらされるような甘美。
梅雨の長雨を、傘のなかから見あげるたびに、この映画を思い出します。

 

場面はもどって、シェムリアップ空港へ。
入国審査も手荷物検査も、なにもなく通過できた。ほ。
たぶんテロに警戒した欧米圏が、きびしかっただけのよう。
出入国管理官も、のんびりハンコをおしている。
あぶりだす覇気がない。
目端がまったくきいてない。
かるい緊張感と、謹厳そうな圧がない。
ハンコ押すひとと化している。
こちらもあんまりみていない。
ハンコを押す手さばきも、やたらと緩慢。
だからめっちゃ混んでいる。
地球の歩き方に書いてあった、指紋採取も、顔写真撮影もなかった。
装置はおいてあったけれど、つかっていなかった。平和でいいな、アジア。

 

空港をでたら、紙にカタカナで名前を書いているカンボジア人がいた。
まちがえようがない。ほ。
ガイドさんと合流できた。
案内された車は、きらめくトヨタのセダン。
年若いドライバーさんが、うやうやしくドアをあける。
助手席についたガイドさんがいう。
「そう、プライベートツアー」
「最終日までだれもこない」
20代くらいのカンボジア人ドライバーと、40手前くらいのカンボジア人ガイドさんと、わたしと母の4人。
これで4泊5日。全行程。
まじでか!
きつくないか!
この4人で!

 

わたしのなかの社交家が、飛行機酔いで死にかけているのに、なめらかに世間話をくりだし、ほがらかにあいづちをうち、セダンの雰囲気をあっためる。
ガイドさんが、観光地でもないのに、早速ガイドをはじめる。
「6つしかない信号のひとつがこのさきにありマス。はい、これが信号デス!」。
信号の紹介された!

つづいて、
「この橋は韓国がつくってくれたネ」
「これは中国が」
「これは日本が」
ガイドさんは、各国への謝辞をならべたてる。
めんくらう。
そ、そうか。
外国の援助がまだはいってるんだ。
目のまえにテロップが流れる。
――政府開発援助 ODA!!!
どこかで習ったやつ、実物をはじめてみた。

 

セダンは、なめらかにどこか高級ホテルのレストランへすべりこむ。

▲クメール王朝ディナー 
ディナーは、5つ星ホテルのレストラン。
すさまじく空いていた。
ついた時点で、わたしたちしかいなかった。
集客を心配して、母がガイドさんを、金曜日の夜なのにと、問い詰めている。
ガイドさんは、あんまり気にしないたちらしく、「多いときは多いデスヨ」といっている。
3ドルのエビアンボトルと、3ドルの地ビールを注文すると、ガイドさんが水の高さに恐縮している。
500mlのエビアンが330円。
高いけれど、まあ高地だったりするとそんなものかなぁと思っていると、国民の半数が、1日2ドル以下で生活しているらしい。
それより高いエビアン。
これには打たれた。

 

▲レストランからみえる中庭

緋鯉のようなものがおよいでいる池に、夕陽がおちてゆく。
それをガラス越しにみる席に、わたしたちふたりしかいない。
かたことの英語でサーブしては、ほのかにほほえんで去っていく。
東南アジアでも、フランスの支配下にあったところはおいしいんだと、母がよろこんでる。
はなやかで、西洋風で、味つけはつつましやかだった。
でも、あとひく飛行機酔いのために、がんがん残す。
3ドルのエビアンを、がぶがぶのむ。
王朝の食事に手をつけず、おざなりにしながら、謎の高級水ばかりあおる。
ああ、これはあれだ、と思いあたった。
幕末期の日本を訪れた、欧米の商人の子女。
わりと失礼なほう。
明治期の日本のような岐路にたちながら、この国も、二の舞になりゆく気配が、とてもした。
おなじものを失いつつ国に、わびしさめいたものがよぎる。
中庭には、マゼンダの斜陽がこめていた。

 

大学のころのともだちから、「今日飲むんだけど、こない?」とラインが入っていたので、「いまカンボジアで夕陽をみてる」と、写真を返した。

 

ディナー後、時間になってもガイドさんがあらわれない。
レストランのたてものを出てすぐの、待合スポットで、待ちぼうける。
治安のあやしい異国の夕まぐれ。
ついたばかりで、おっちゃんがぜんぶ不審者にみえる。
残照は去り、墨をながしたように暗い。
とまるホテルが近いのかすら、わからない。
ここは、英語が通じるんだけど、わたしに英語が通じない。
だんだん会いたてのガイドさんの顔があやふやになってくる。
おっちゃんはぜんぶいっしょにみえる。
あの人?
トゥクトゥクのおっちゃんが、たまに客引きしてくる。
目があって、近づいてくる。
手招きしてくる。なんかいってる。こわい。
のんびりと母が、サイフをだして紙幣を数えだした。
な、なにをしているんだ母よ。
あわてて止める。
30分経過。
ガイドさんが、ふとあられた。
ちょっと離れたところでスマホゲームをしていたらしい。
まじでか。 


ホテルに到着。
ちゃんとカギがしまりそうで、シャワーもお湯がでて、ベッドメイクも美しかった。ほっとする。
さっきの飲み会のともだちから、ライン通話が鳴った。
いま22時。時差は2時間だから、日本は24時。
もう遅いだろうに。終電のがしてないか。
そうか、きょうは金曜の夜か。
「朝陽、ちゃんと行けよ。サボるなよ」と、口々にいわれた。

 

そう、あしたはアンコールワットにのぼる朝陽をみるために、朝5時半時集合。
まだ明け染めぬ、払暁にたずねる世界遺産は、さぞすばらしいものに違いない。
つづく。

 

 

 ▼kindle版の地球の歩き方。これをスマホのkindleアプリに落としておくと、地図不要で、めっちゃ便利。いきたいところは、スクショをとっておく。

地球の歩き方 D22 アンコール・ワットとカンボジア 2018-2019 アンコール・ワットとカンボジア

 

目のひょうげん。

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犬の目を、みてください。
玻璃の玉のようです。
犬の毛並みを、みてください。
ひかりにとけそうです。
ひなたをさがして、ここにいます。
(ぬくいからです)


犬は、そのたたずまいが、絵になります。

 

(ホームズ著『アート、それは犬』より抜粋)

おもてなす

こもれび あきのひ 
はもれび ひだまり
きみどり あきのひ 

犬の毛並みが、きみどりになっています。
秋が、長居しています。
おもてなすと、ながくいてくれるらしいです。


(ホームズ著『犬と四季』より抜粋)

はやわざ

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なでてもらうために、すかさず、おなかを見せます。
なでてくれなさそうでも、とりあえず、おなかを披露します。
空気をよんではいけません。
あさましくもとめることが、とても肝要です。
しかたなさそうに、なでなでしてもらえます。

 

たまに人間は、はなしあっています。
「犬のおなかは、人間でいうとどのくらい快感なのか」
だいぶ、しょうもない議題だとおもいます。

 


(ホームズ著『犬のもたらす薔薇色の日々』より抜粋)

五感

犬の目は、赤と黄色をみます。
犬の耳は、風をききます。
犬の鼻は、きんもくせいを知ります。
犬の肉球は、つめたいです。
秋がいるのかもしれません。

 

 


犬の舌には、春も夏も秋も冬も、おなじものがのります。
(ホームズ著『犬と四季』より抜粋)

ケモノのめんもく


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ケモノくさくなると、丸あらいされます。
シャンプーのにおいになります。
フローラルです。
ケモノ、かたなしです。
これが人間の所業です。

 


(ホームズ著『必読・犬の陳述書』より抜粋)

よびましたか。

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庭をみていました。
だしてほしいとはいってません。
みているだけです。
そんのうじょういをしています。
たまにノラネコが、シマをあらしにきます。
うち払います。
ノラネコは堂々と横切ります。
犬は、なめられています。

 

(ホームズ著『犬のかなしみ』より抜粋)

柿が色づいてきました。

もう少しすると、鳥が食べにきます。
食べはじめると、みどりのヘタがのこるだけになるまでたべます。
みどりが木にくっついているだけになります。
おぎょうぎがいいとおもいます。

今回は、柿といっしょにうつってあげました。
犬は、柿とおなじくらいの大きさです。
犬はちいさくてかわいいです。

 

(ホームズ著『犬と四季』より抜粋)